I have a pen.

確かにそうだ。若かりし頃、確かに私もペンを隠れ蓑としたことはあった。バビロンをバビロンと認識し、防犯カメラを警戒し、キョロキョロしながらポケットに手を突っ込んで六本木の横断歩道を渡っていたあの頃のことだ。ペンのペンたる機能を無視して身体中から黒い血液を抜き出し、その器だけを借りる。あの小さな小さなスペースを法律の及ばない空間として閉ざし、かりそめの安心感を得る。なんて自己中心的な発想だろうか。ラッパーにとってペンはもっと崇高な必需品ではなかったのか。

“若きMCたちに告ぐ お前さんがリリックを書いているそのスマートフォンなんかは決してスマートでもなんでもねぇ まずは鉛筆に握り変えろ 思考を変えろ もう一度思い出せよ 鉛筆は木からできている 鉛筆の中心部分にはグラファイト、黒鉛ってものが眠っている それは電気伝導体だ 俺たちの心や身体には電気が必ず眠っているんだ”

2017年のDJ KRUSH “軌跡”Release Partyで志人が放ったフリースタイル。おそらく心打たれた者も多いのではないだろうか。これは厳かな自然と向き合いながら生活を営む志人だからこそ言える言葉で、とても説得力がある。まるで、尖った鉛筆がスマートフォンを貫くような世界観。心にも鋭く突き刺さる。私には彼ほど深い考えはないし、スマートフォンも大好きなので、正解は分からない。ただ、確かにスマートフォンに活字を打ち込むよりは、ペンを握って紙に「書く行為」の方が、言葉に魂を吹き込むような厳格さがある。さらに、その画一的ではない指の動きは、脳に直結し、思考の整理やアイデアの創出に一役買っているはずだ。

私は昔ほどテクノロジーを嫌っていない。確実に恩恵を受けているからだ。ただ、文房具の市場価値が下がり、不当な扱いをされている現状は心苦しい。
例えば、私のようにフリーランスで仕事をしている人間は、たった数回の仕事の受注にも契約書が伴う。本来ならば、契約書を郵送して契約を結ぶにはボールペンと紙と封筒と印鑑とノリが必要になるが、今はパソコン一台で済んでしまう。契約もクラウド上で行える時代なのだ。そりゃあ文具業界も衰退するってものだろう

使う必要がなく衰退するならまだいい。ある意味ではそれは自然淘汰とも言える。ただし、ただの隠れ蓑としてペンが利用される姿は、なかなか切ない光景である。完全なるオーバーキル。虐げられているという表現さえ当てはまる。それは、「ペン型」という名を冠した、世に渦巻く静かな暴挙だ。

『ペン型ライト』というものがあるが、これにはなんの文句もない。そもそもライトを縮小するとだいたいペン型になるだろう。『ペン型マルチツール』なるものもある。着火ツール・コンパス・ホイッスルなどが内蔵されているサバイバル系も、同じようにペンの“サイズ感”を借りているだけだ。
ただ、ボールペン・タッチペン・定規・スマホスタンド・栓抜き・ドライバーなどとして利用できるライフハック系のアイテムには疑問がある。確かに便利そうではあるが、もしこのアイテムを手に入れたとして、果たしてボールペンとしての機能を使うだろうか。なんとなく便利そうなものを無理やりくっつけられたペンの小さな悲鳴が聞こえてくる。とはいえ、このあたりはまだかわいいもんだ。

明らかにペンという存在を隠れ蓑にしているのが、『ペン型ボイスレコーダー』と『ペン型ビデオカメラ』。

私は取材のときは必ずボイスレコーダーを持っていくわけだが、もちろん取材開始の前に「会話を録音してもよろしいでしょうか」と先方に許可をもらう。取材なんだから録音するのは当たり前だが、この一言は絶対に忘れてはいけないことだと思っている。しかし、この『ペン型ボイスレコーダー』は、相手の許可を得ずに録音することを前提に設計されているとしか思えない。許可を得るならボールペンの見た目をしている必要はないのだから。同じくらい小さなサイズの便利なICレコーダーなんてざらにある。

さらにその先を行くのが『ペン型ビデオカメラ』。超小型の高性能カメラレンズが付いていて、かなり画質も良いようだ。薄暗い場所でもきれいに録画できるらしい。『ペン型ボイスレコーダー』と同じように、見た目は完全にボールペンだ。

このアイテムは、例えばこんな謳い文句で売られている。

「会議や商談でも便利!仕事でもプライベートでも使えるペン型カメラをカバンや胸ポケットに入れて持ち歩こう」

「女性に多い悩み。セクハラ、ストーカー被害、一人暮らしの不安など。スパイカメラは正しく利用すればあなたを守るアイテムとなるでしょう!」

後者のメッセージは防犯グッズだという主張だが、果たしてそうだろうか。「スパイカメラ」って言っちゃってますし・・・・・・。このアイテムを知ってまず思いつく言葉は「盗聴」や「盗撮」ではないだろうか。
こんなにも犯罪を助長するような犯罪防止グッズが、他に世の中に存在しているのでしょうか!そう思うのは、私の心が歪んでいるからでしょうか!

ここまでくると、本来は「電話」であるスマートフォンにも、同じ機能が付いていることに気づく。ただし、スマートフォンに録音・録画の機能が搭載されていることを知っている人は多くても、胸ポケットに刺さったボールペンにその機能が付いていることに気づく人はいないだろう。これが大きな違いで、ペンがカモフラージュとして利用されているのではと疑いたくなる理由だ。

あぁ、デジタル時代のウィルスに、本来の機能ではなく器として利用される哀れなペンたちよ。せめて全世界のラッパーたちの必需品として復権し、そして心ゆくまで使い倒されたまえ!